助かった命を大切にする医療 〜地震の被災地でも大切〜

せっかく助かった命を大切にする医療。それがリハビリ医療です。

生きているだけでも・・・と言ってじっとしていたら、助かった命も危うくなります。
廃用症候群に陥るからです。これは一言で言えば、動かないことによって引き起こされる様々な症状です。

新潟の地震のときに話題になりましたが、深部静脈血栓症はすぐにでも命に関わる廃用症候群の一つ。これは、避難所生活の初日から発生します。予防はとにかく下肢を動かすこと。元気な人も心がけるべきです。もともと麻痺などであまり動けない人が、避難所等でどのような状況かはわかりませんが、自分で動けなくても周囲の方が動かすことである程度防ぐことができます。

以下は以前、日経新聞に連載したリハビリの力」から、廃用症候群に関する回の原稿です。リハビリ医療では常識的なことで、特に真新しいことはありませんが、参考にして下さい。


「安静」の副作用、廃用症候群


(前略)・・・日本人に特有の安静信仰です。一昔前は、脳卒中で倒れた ら、たとえトイレの中であっても絶対に動かしてはならないとい う迷信がありました。また病院では、脳卒中、骨折、感染症、 心不全など、数多くの病気で、「無理しないで安静にしていてく ださい」と言われることが少なくありません。


しかし、欧米で は、よほど重症の場合を除いて、原則として、いすに座ってい る時間を多くし、必要に応じて立ち上がったり、歩いたりしま す。日本のように風邪をひいただけで寝込んでしまうのは、実 はおかしなことなのです。医療関係者の中にはいまだに、「と りあえず安静」という考えが強いのですが、安静は重大な「副作用」をもたらし、最悪の場合、寝たき りを作ってしまうことを、多くの医療関係者が肝に銘じてほしいものです。


この「副作用」を廃用症候群と呼んでいます。全く病気がなくても、一定期間以上、身体を動かさな いでいると、筋肉が萎縮し、関節が固まり、骨粗しょう症が進み、体力が落ち、全く歩けなくなってし まいます。最悪の場合、肺炎や褥瘡(じょくそう:床ずれ)になることさえあります。廃用症候群には 以上のものに加え様々な症状が含まれます(表)。若い人の場合、多少筋力が落ちても、歩けなくな るほどの状況にはなり難いのですが、高齢者の場合は深刻です。年齢を重ねるに従って筋力が低下しているので、もともと予備能力が少ないからです。高齢者は、ごく短期間の安静でも、寝たきり につながります。寝たきりが「寝かせたきり」とも言われる所以(ゆえん)です。


普段から「貯筋」を


廃用症候群になりにくくするために、日ごろから筋力を蓄えておくことが大切です。少しずつでよい ので、毎日コツコツと筋力をつけておくのです。これを「貯筋(ちょきん)」と呼んでいます。また、一般 の医療機関に内科や外科の病気で入院した場合、リハビリ専門医がいないことが少なくないので、 病気が治ったのに寝たきりになってしまうことがあります。数日の検査入院だけで歩けなくなる人さ えいます。こういったことにならないよう、患者さんや家族で自衛しなければなりません。日ごろか ら、基本的な筋力を向上させる方法を習慣づけしておく必要があります。


そこで今回は、廃用症候群を防ぐために、自主的に行う訓 練のポイントを示します(写真=いずれも関西リハビリテーシ ョン病院協力)。数多くの廃用症候群対策のうち、筋力の維 持・向上等のための訓練の一部です。これらの訓練は、病院 に入院した場合だけでなく、普段から行うことによって、「貯 筋」としての効果があります。また、何らかの理由で入院した 場合でも、普段から行っている運動であれば、具体的に主治 医に許可を求めやすいと思います。一般に、歩行のように動 きをともなう運動は、心臓への負担は少ないのですが、動か す関節への負担は増えます。逆に、動きをともなわない、いき むような運動は、血圧を上げ、心臓に負担がかかりますが、 関節への負担は少ないという理由で選択される場合もありま す。心臓の病気がある方、関節に炎症のある方、その他運動 に関連する病気の場合は、危険な場合もありますので、必ず 専門家に相談するようにしてください。


まず、ベッド上でできる運動と座ったままでできる運動を示し ます。これは、運動習慣がない人にも、朝晩、ベッドの上で行 ったり、テレビを見ながら座ったまま行ったりできるように工夫 してあります。実は歩くための基礎的な筋肉は、これらの運動でほとんどカバーできてしまうのです。さらに、起立着席訓練 やバランスの訓練も重要です。起立着席訓練は手すりに頼ら ずに、重心移動だけでスムーズにできるように練習します。バ ランス訓練を安全に行うためには、転んでも危険のないように 周囲の物を片付けた上で、布団の上で両膝(ひざ)立ちや片 膝立ちする訓練、あるいは四つ這(ば)いの訓練が有効です。 ベッドを使っている方は、床に座布団を敷いて行いましょう。 バランスを崩してもこの方法なら、大事には至りません。片膝 立ちなどは、やってみると、意外に難しいことがわかります。 膝に痛みがある場合は中止してください。


歩く・座る・立つも重要


また、歩くことは筋力や体力を維持するためには不可欠です。歩くスピード、坂道、階段などの条 件によって、心臓や関節への負担が変化しますので、普段行ってみて楽に歩ける、あるいは、やや きついくらいのスピードでの平地歩行がよいでしょう。指標として万歩計を使うのも、自分で数値目 標を持てるので有効ですが、一律に何歩歩くと決めつけない方がよいと思います。まず、普段の自 分の歩行が何歩くらいになるかを測定し、それを2〜3か月かけて1割ずつ増やすくらいのペースが よいでしょう。普段3000歩しか歩いていない人が、いきなり1万歩を歩くような方法はお勧めできません。


もし、何らかの理由で歩けない場合でも、最低限座る時間を 増やすことが重要です。座るということは、ベッドの背もたれを 上げることではなく、両足を床にしっかりつけて、背もたれなし で座ることを意味しています。また、できれば体重をかけて立 つことをお勧めします。立ち上がりが困難であっても、転ばな いように介助してもらって、立位を保つことを試みてください。


廃用症候群の予防や治療には、体重をかけて立つことが大 切です。体重をかける理由に、若田光一さんのように宇宙の 滞在が長い宇宙飛行士の医学的問題が関係してきます。こ れについては、次回の連載でお話ししましょう。


ーーーー引用終わり。

同じことが地震津波の避難所でも起こっており、その対策が必要です。

現地のリハ医は動き出しているようです。


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